金属イオンの沈殿反応 

金属のイオンは,さまざまな陰イオンによって沈殿させることができる。各金属イオンがどの陰イオンで沈殿するのかを,次の表や図によって覚えよう。

表で覚える

 

陰イオンごとに覚える

① 硝酸イオンNO3で沈殿するものはない。

② Clを加えると沈殿する金属イオン ・・・ AgPb2  

PbCl2は熱湯に溶ける。AgClは日光を当てると黒っぽい色に変色。また,AgClはアンモニア水に溶解し,錯イオンとなって,無色の水溶液になる。

③ OHによって沈殿しない金属イオン ・・・KNa Ba2 Ca2 NH4

④ 過剰のNaOH水溶液に溶ける水酸化物 ・・・Al(OH)3 Zn(OH)2

⑤ 過剰のアンモニア水溶液に溶ける水酸化物 ・・・Cu(OH)2 Zn(OH)2  Ag2O

⑥ SO42-を加えると沈殿する金属イオン ・・・ Ba2 Ca2Pb2

⑦ CO32によって沈殿しない金属イオン ・・・ NaKNH4(金属ではないが同じように考える)

⑧ H2Sとの反応

   沈殿しないイオン ・・・ KNaMg2Al3 Ba2 Ca2 NH4

水溶液が中性・塩基性のとき沈殿するイオン ・・・ Fe2Zn2(この他はあまり出ない)

水溶液が酸性でも(どんなときでも)沈殿するイオン ・・・ Pb2 Cu2 Ag(この他はあまり出ない)

⑨ CrO42によって沈殿するイオン ・・・ Ba2Pb2Ag

⑩その他の金属イオンの検出 ・・・ ネスラー試薬で黄~褐色の沈殿 ⇒ NH4+

図で覚える 

 

【金属イオンの分離】 

金属イオンの沈殿反応を参考に考える。

 

硫化水素H2Sによる沈殿の生成と液性について

 金属イオンの硫化水素による沈殿の生成では,Pb2Cu2Agなどは液性がどのような場合でも(酸性の場合でも)硫化物の沈殿が生じる。一方,Zn2+Fe2などは液性が中性~塩基性の場合で(酸性の場合はだめ)硫化物の沈殿が生じる。

 これは,それぞれの金属イオンからなる硫化物の溶解度積と関係がある。

 

25℃,水における溶解度積Kspイオン積の値がKspを超えると沈殿が生じる

 

硫化水素は,水に対する溶解度(5g/L20℃)から,水に吹き込むとおよそ0.1mol/L〕となる。また,水溶液中では一部が電離し,硫化物イオンS2を生成する。

  H2S ⇄ 2H + S2   K[H]2[S2-]/[H2S]= 1.2×1021(mol/L)2

 これより,[S2] 1.2×1021[H2S][H]2 1.2×1022[H]2

pH1.0の場合は,[H]1.0×10-1より,[S2]1.2×1020pH5.0以上では,計算上[S2]0.1mol/L〕を超え,完全に電離していると考えられるので[S2]0.1

 

 各金属イオンが1.0×103mol/L〕であるならば,pH1.0[S2]1.2×1020)のときに硫化物の沈殿が生じる(金属イオンとS2-のイオン積がそのKspを超える)のは,PbSSnSCdSCuSAg2Sである。また中性~塩基性([S2]0.1)では,上記の硫化物はすべて沈殿する。